やましき沈黙

「海軍善玉論」というものがあります。乱暴狼藉を繰り返した陸軍と対比しての言葉です。その根拠の一つが、いわゆる東京裁判で極刑となった者がいないことだそうですが、わたしは個人的に、阿川弘之の『山本五十六』『米内光政』『井上成美』の“海軍提督三部作”を読んで、やはり同様の印象を持っていました。

しかし、考えてみれば当たり前。太平洋戦争を戦ったのは海軍でした。戦争という忌むべき事態に積極的に身を置いた組織が善玉であるはずがありません。これは戦争の結果、つまり勝った側か負けた側かに関係なく、戦争をしない軍隊こそが善き存在なのです。その自己矛盾を抱えて。

日本の現代小説は組織と個人の軋轢を描いてきたといわれます。NHKスペシャルを書籍化した『日本海軍400時間の証言』もまた同様です。

その中で、こういう言葉が紹介されています。

「やましき沈黙」

この言葉にどきりとしない人はいないでしょう。つまり、先の戦争は他人事ではないのです。