ゴールではない

ボクシングの井岡一翔が、日本人として最速の七戦目で世界タイトルを獲得しました。無敗で、今回が七度目の防衛戦というチャンピオンを破ってのことで、周囲のお膳立ての要素もなく、素晴らしい偉業です。第二ラウンドにダウンを奪った左フック。試合を決めた左のボディブロー。ともに、脚の踏ん張りと、そこから生み出される腰の回転によるパンチでした。

さあ、これからです。

上記のような数字だけで語られる選手になるのか。人々が、その戦う姿に自己の何がしかを投影して応援する選手になるのか。

井岡には、ボクシングバカにならないでほしい。それは、ボクシングを、収入を得るための“手段”として割り切れ、ということではありません。

広い世界を知ってほしい。そこには、ボクシングと同じくらい素晴らしいものがたくさんあることを知ってほしい。

例えば音楽。譜面どおりに演奏すれば良いなら、コンピューターで制御された機械が最も素晴らしい演奏をすることになります。しかし、そうではありません。

内面を磨くと、それは自然と外面に現れます。

若さを強調され、少年の面影がある井岡が、男のプロボクサーに成長してくれることを切に願います。

そう、彼にとって、多くのボクサーが目指す頂、世界チャンピオンはゴールではありません。それは、選ばれし者の背負う価値の逆転です。

強くなれ。