『死刑台のエレベーター』

「綿密に練り上げた完全犯罪を実行したジュリアンは、その直後に思わぬことから無人のビルのエレベーターに閉じ込められてしまう。36時間後にようやく外に出た彼を待ち受けていたのは、思いもかけない、まるで身におぼえのない殺人容疑だった。エレベーターに一人閉じこめられていた彼にはアリバイがない。しかも、閉じこめられていた理由は決して話せないのだ。偶発する出来事が重なる中で追い詰められていく男の焦燥と苦悩と恐怖を見事に描き切った、超一級のサスペンス。」

偶然が重なり、悪いことが重なり、状況証拠も物的証拠もジュリアンを追いつめていきます。様々な証拠や証言が次々に披露されるたびに、読者もまた、ジュリアンとともに、「そう来るか! でも、それは間違いなんだよ」と言いたくなります。気の毒なような、滑稽なような、泣き笑いたくなるような。

また、ジュリアンがエレベーターに閉じ込められている間に起きる、濡れ衣を着せられる事件も、丁寧に描かれます。1950年代のパリの、自尊心ばかり肥大した青年と、彼の“頭の良さ”に魅かれる娘の物語は、やはり滑稽でありながら、一抹の寂しさすら漂わせます。

人間の悲劇と喜劇は、一枚のコインの表裏。

300ページちょっと。映画に例えるなら、95分くらいの、きりりと締まった好編でした。

死刑台のエレベーター【新版】 (創元推理文庫)

死刑台のエレベーター【新版】 (創元推理文庫)

※刊行当時に映画化され、この作品を原作にした同名の作品が邦画で再映画化されています。