『ベルリン・コンスピラシー』

ホロコーストの生き残りで、戦後間もない時期、その復讐のための部隊に参加した過去を持つ老人、ルドルフ・ブレイヴァマン。彼はホテルの部屋で、激しいノックの音で目覚めます。ドアの向こうから聞こえてくるのはドイツ語。窓の外には、二度と足を踏み入れまいと誓ったドイツ、ベルリンの街並み。そんなはずはない。昨晩はロンドンのホテルでベッドに入ったのに……。

ブレイヴァマンは逮捕されます。容疑は、62年前に、仲間と共にSSの将校五人を殺したというもの。このおかしな状況の真相を解明しようと奮闘する、ブレイヴァマンの息子のギデオンがたどり着いた陰謀の正体は……。

エスピオナージュ(スパイ小説)の巨匠と言われる、マイケル・バー=ゾウハーの作品を初めて読みました。

ネオ・ナチが台頭し、アメリカに対抗するヨーロッパの盟主たらんとする(この小説独自の設定がなされた)ドイツが舞台。そこには、『これからの「正義」の話をしよう』でマイケル・サンデル教授が言及していた、「私たちは、自分たちより前の世代が犯した過ちに責任があるのか」という問いかけがあります。

また、外国で逮捕、拘留されるという状況は、最近の日本と中国でも起こったことです。ブレイヴァマンが逮捕されたことには、本人の与り知らない理由があり、その寒々としたリアリティに慄きを覚えました。

人が、破廉恥になって恥じない言い訳を付与する、人間の集合体としての組織とは、人にとって何なのでしょう。そして、人としての尊厳を守るための痛ましい決断。ブレイヴァマンの踏み出す一歩。

重い読み応えと、エンターテインメントとしての完成度の高さ。その二つが両輪となって、ページを繰る手を止めさせず、440ページをほぼ一日で一気読みでした。

ベルリン・コンスピラシー (ハヤカワ文庫NV)

ベルリン・コンスピラシー (ハヤカワ文庫NV)