アプローチショット

『これからの「正義」の話をしよう』の著者、ハーバード大学教授のマイケル・サンデル氏は、今回の日本滞在の中で、何か新しい刺激を得たのでしょうか? 

儒教老荘思想、仏教。その中でも特に“禅”に触れる機会があったなら、氏の論の幅が広がるのではないかと想像します。

そして、武士道。人生が選択の連続の結果なら、やはり、『葉隠』のこの一節に触れないわけにはいきません。

「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり。二つ二つの場にて、早く死ぬはうに片付くばかりなり。」

この一節に、“死”ではなく苛烈な“生”のインスピレーションを得てくれたなら、とても愉快な化学反応が起きるのではないかと思わずにいられません。

ちなみに、上記の一節は次のように続きます。

「別に仔細なし。胸すわつて進むなり。図に当らぬは犬死などといふ事は、上方風の打ち上りたる武道なるべし。二つ二つの場にて、図に当ることのわかることは、及ばざることなり。我人(われひと)生くる方がすきなり。多分すきの方に理が付くべし。若し図にはずれて生きたらば、腰抜けなり。この境危ふきなり。図にはづれて死にたらば、犬死気違なり。恥にはならず。これが武道に丈夫なり。毎朝毎夕、改めては死に改めては死に、常住死身(しにみ)になりて居る時は、武道に自由を得、一生超度(おちど)なく、家職を仕果すべきなり。」

これを伝奇小説(時代小説)として構築してみせたのが、隆慶一郎の『死ぬことと見つけたり』(新潮文庫)です。これも、ぜひ。

死ぬことと見つけたり〈上〉 (新潮文庫)

死ぬことと見つけたり〈上〉 (新潮文庫)

私は、NHKで放送された「ハーバード白熱教室」を少ししか見ていません。そして、上質なエンターテインメントという印象を持ちました。その著書を読みました。そこで、もう一度あらためて見てみたいと思わずにいられません。