『小説 北へ。』

私が好きな作家、五條瑛は、デビュー作の『プラチナ・ビーズ』を執筆していたのと同時期に、別名義である小説を書いています。テレビゲームの商品展開の一環として企画された『小説 北へ。』です。

この作品は全十話から成る短編集ですが、ある趣向が凝らされ、変則的な連作短編集になっています。①(という女の子)が主人公の第一話に②がゲスト出演し、②が主人公の第二話に③が登場し……、という具合に、すべての話が連環しています。

登場するすべての女の子は、皆その娘なりの屈託や悩みを抱えています。その中で、ささやかに出会う見知らぬ女の子と触れ合い、自分に無い美徳を見て羨ましく思ったり、一歩踏み出す勇気をもらったりします。この“ささやかに出会う”ところが、この作品の魅力の一つです。互いの生活圏の一部が偶然重なり、その外縁を掠めるように通り過ぎていくだけ。しかし、感受性の強い女の子たち。そこに小さな物語が生まれます。

この作品に登場する女の子たちは、全員が、他の女の子から良い影響ををもらい、同時に、別の女の子にそれを与えてもいます。自分が気付かないところで。

私たちは、それだけのモノを持ち得るのです。(持っている、とは言いません)もしそうなれたら、生かされていることの、少しでも恩返しにならないでしょうか。

日々、すべてが修行です。

※相変わらず、加筆訂正しました。