『裏切りの峡谷』メグ・ガーディナー

明るく元気でタフなヒロインのエヴァン・ディレイニーと、その恋人のジェシーブラックバーン。この二人が活躍する、エンターテインメント小説です。内容については、最後に載せる商品データからご覧ください。

ジェシーは交通事故に遭い、車椅子を使った生活を送っています。彼はそのハンディキャップをものともせず、毎日の生活を明るく前向きに過ごしています。周囲の人々は、彼が運命を乗り越え、不幸を克服したと思っていました。誰よりも、ジェシー自身が。

しかし……。

そんな穏やかで充実した日々を過ごしていた(はずの)ある日、交通事故のひき逃げ犯を偶然見かけたジェシーは、荒れ狂いました。それは恋人のエヴァンを失うことも辞さないほどの暴風雨となりました。噴き出す暗い情念は彼の価値基準、優先順位を木っ端微塵に打ち砕き、彼は復讐の鬼と化しました。

エヴァンは驚き、そして、悟りました。ジェシーの中で、この問題は何ら解決していないのだと。

誰もが理不尽な仕打ちに対する憤怒や屈託を胸の内に抱え、それは大したことではない、それに拘るのはつまらないことだと自分に言い聞かせて生きています。私も、これを読んでくださっているあなたも。だって、そうしなければ、この毎日を過ごすことなどできないから。

私はこの『裏切りの峡谷』を読んですぐ、ある掲示板に「映像的で読み応えがあり、ページ数も気にならずに一気読みした」という内容のコメントを書きました。それは正直な感想です。エンターテインメントとして読み応えがあり、誇張はありません。

しかし、読み終えて数日経つ中で、今回書いたジェシーの慟哭が耳から離れません。彼は私であり、あなたでもあります。

裏切りの峡谷 (集英社文庫)

裏切りの峡谷 (集英社文庫)