雨の日こそ

「オレが洗車すると雨が降る」だって? ご冗談を。自意識過剰というもの。自然現象、雨は降るものです。

私の好きな作家、五木寛之はエッセイ『生きるヒント』以降、文明評論家、或いは人間評論家のようになってしまいました。老境に至り、小説という形でよりも、もっと直截に言い残しておきたいことがたくさんあるのでしょう。

しかし、“小説家:五木寛之”に惚れ込み、新刊書店で手に入らない作品は古本屋をはしごして何年もかけて揃えた身としては、エンターテインメントの形で同時代性と普遍性の両方を表現してきた五木寛之の、作家としてのスタンスの変化は残念で仕方ありません。

もう何年も浄土真宗蓮如に傾倒し、最近では『親鸞』が売り上げ好調ですが、私は手が伸びずにいます。

その五木寛之に、『雨の日には車をみがいて』という短編集があります。すべて車を扱った作品集です。表題作は「雨の日にこそ車を洗うべき。それが美意識というもの」と言う女性の物語です。

常識とは、皆が常識と思うから常識足り得ます。ささやかな反骨、小さな抵抗の前に、明確な存在基盤を持たない“常識”は、実は脆弱です。もっとも、それを貫き通すには、覚悟と力が必要です。

牙を研げ。

雨の日には車をみがいて (集英社文庫)

雨の日には車をみがいて (集英社文庫)