死者の代弁者

アメリカミステリー界の大御所、マイクル・コナリー。彼の創造した孤高の刑事、ハリー・ボッシュフィリップ・マーロウの系譜に連なる騎士です。

ボッシュはその波乱万丈な刑事人生の紆余曲折を経て、最近の作品で、刑事としての自身を“もの言わぬ死者の代弁者”と定義します。

今日、先日触れた元同級生の通夜に参列しました。悲しみに満ちた苦しげな表情の家族と、ホールの外で久し振りに会った元同級生とお喋りにいそしむ人たち。その温度差は目を背けたくなるほどでした。

私も含めて、大半の参列者は義理や付き合いで足を運んだ者です。上記の様子が、世の葬式にありふれた光景だと言われればそれまでです。しかしながら、最低限の礼儀はあってしかるべきです。

正直に心情を吐露すれば、悲しくはありません。彼が亡くなったことで、私の中に喪失感があるかと訊かれたら、「無い」と答えます。それでも……。

彼が死の瞬間に抱いたならば、その無念を。それすら持つことができなかったならば、その無念を。残されて生きている私は想像しようと思います。忘れまいと思います。

“ハリー・ボッシュ”シリーズは、大好きで追いかけていましたが、思いがけない形で大切な作品になりました。最新作の『エコー・パーク』が本棚で出番を待っています。