母と息子

父親と息子は、母親という女性を巡って争うと云います。しかし、息子にとって母親は決して女性ではなく、どこまでも“母親”という存在です。

そして、息子は(父と母の両方の)親を疎ましく思うものです。それでも他人になることはできず、家族という不思議な縁(えにし)は消えることはありません。

作家の宮崎学は自著に書いています。「アウトローであれヤクザであれ、母親に頭が上がらないような者の方が男として本物であると思う」と。

わたしも、自分の母親を悪し様に言う男を信用しません。

トム・ロブ・スミスの『偽りの楽園』は、その母親を救おうとする息子の物語です。

母親もまた一人の女性であり、その人生を歩んできたという想像は、息子にとっては戸惑いの多いものです。

父親と母親を自分と同じ一人の人間として受け入れるのは、ちょっと寂しいものです。ああ、こんなに小さかったのかと。

それらを乗り越えることで、主人公の若者は自分の人生においても一歩を踏み出していきます。

母親にとっての息子。息子にとっての母親。

寒い冬の、冷たく透明な物語。

偽りの楽園(上) (新潮文庫)

偽りの楽園(上) (新潮文庫)

偽りの楽園(下) (新潮文庫)

偽りの楽園(下) (新潮文庫)