幻想が描く真実

わたしたちが確固として揺るぎないと思っている価値観。その共通認識がなくては、社会は成立しません。

しかし、人ひとりが知っていることなど、この広い世界の中の小さな微々たるもの。

その集合体の“常識”の正体など、推して知るべし。

誰もが知っているようで知らない部分。それは、わたしたちが思っているよりも広く大きいのかもしれません。

その、人の世の真空地帯とでも云うべきもの。それこそが、幻想。

そこから逆に見た人の世は、天国か地獄か。はたまた、すべてが混濁した現し世か。

そこで生き抜く縁(よすが)となるのは、互いに相手を思いやる“善なる心”です。

悪意は、一時的には隆盛を誇るかもしれません。しかし、それは何も生まず、何も遺さず消え去るのみ。見返りを求めない素朴な善意の光に掻き消されて。

幻想の都(まち)バルセロナを舞台に、本をモチーフに謳われる人間賛歌。

本好きが手に取らずにはいられないシリーズです。

天国の囚人 (集英社文庫)

天国の囚人 (集英社文庫)