私の好きな作家:月村了衛

現在、わたしが文庫化を待たずに単行本で追いかけているのは、船戸与一五條瑛、そして、月村了衛です。

初めて手に取ったのは『機龍警察』。その“完全版”が刊行され、もちろん購入、再読と相なりました。

最初に魅力を感じたのは文体、物語る調子でした。ひと言で云えば、清涼にして涼やか。きりりと引き締まった文章が苛烈な物語世界にぴったりで、それはつまり、この作家は自分が描く小説の世界観と、それを表現する言葉の関係を重視しているということであり、自覚を持っているということです。

この作家は信頼できる。そう思いました。

どの作品も、戦う者たちの物語です。しかし、作中で描写される戦いの激しさだけに目を向けていたのでは、この作家の本質を見誤ります。

では、上記の文体は何に対して有効なのでしょうか。それは、登場人物たちの生き様にです。

この作家の描く人物は、男であれ女であれ、心に傷を抱えています。絶ち難い過去を引きずっています。しかし、それを言い訳にすることが一切ありません。無視するのでもありません、無かったことにするのでもありません。ただ受け入れて、自分の人生を歩んでいるのです。

わたしは、この強さに痺れます。

エンターテインメントとしての魅力に溢れ、文章で綴られた“小説”を読む醍醐味のある、次の作品が待ち遠しいと思える作家です。