パンドラの虚無

『夜と霧』と『収容所から来た遺書』には、まったく同じエピソードがあります。

一部のユダヤ人が、支配者から与えられた権力を使って、強制収容所に閉じ込められた同じユダヤ人を虐待する。

一部の日本人が、支配者から与えられた権力を使って、俘虜収容所に閉じ込められた同じ日本人を監視する。

ともに、「王よりも王派」の言葉どおり、より過激に。

このようなシステムを思いつく邪悪。そして、与えられた権力に酔って優越感に浸る下劣。人間の愚かさの極みです。

そのような物心ともに過酷な状況でも失われない良心は感動を呼びますが、そのような光を輝かせるために闇があって良いということにはなりません。

しかし、人間の業は、それがあるからこそ人間は人間であり、人間が人間であるかぎり消えることがないのも真実です。

パンドラの箱から、人の世のすべての悪しきものが解き放たれた後、そこに残った一片の希望。骨の折れる戦いですが、「やってみるさ」。

収容所(ラーゲリ)から来た遺書 (文春文庫)

収容所(ラーゲリ)から来た遺書 (文春文庫)