『消滅のリスト』

世界が二つの陣営に分かれて睨み合った東西冷戦の後。ソ連が消え、唯一の超大国となったアメリカを中心に世界が回ると思いきや、そうは問屋が卸さず、新たに中国が台頭してきましたが、利害が錯綜して、かつてのような二極構造にはならず、その歪みは複雑にならざるを得ない外交をさらに複雑なものにしています。

戦後の世界の平和を守るために設けられた、ある“会議”。

五條瑛の『消滅のリスト』は、そこに「世界遺産」と都市論を組み込むという奇抜な発想のもと、諜報活動を取り締まる法律がない“スパイ天国”の日本の、ロシアや中国、さらに北朝鮮とも貿易によって密接に結びついている日本海の架空の都市を舞台に、スパイたちの暗闘を描きます。

特定の主人公を置かない群像劇という手法が作品のテーマ、様々な思惑が入り乱れる物語の構造にぴったり合って、相変わらずのページターナーぶり。ただハラハラドキドキと読み進めるのではなく、読者に興味深く考えさせながらページを繰らせる手腕が見事。

戦争に勝った者と負けた者。戦後レジームとは、そのコントラストに他なりません。その構造の中で蠢く魑魅魍魎たち。

善意も悪意もなく、あるのは冷徹な事実のみ。そのゲームの中で、作者は希望を託します。それは、聡明ではないかもしれないけれど、素朴に明日を信じて今日を生きる若者たちです。

魅力的な登場人物が多数いて、続編とはならなくても、個別に主人公にした作品が展開されるのも面白いと思います。期待しています。

消滅のリスト (小学館文庫)

消滅のリスト (小学館文庫)