私の好きな作家:三崎亜記

『となり町戦争』でデビューした三崎亜記は、独特の物語世界を紡いでいます。

何でもない日常の中に奇抜な出来事や現象が横たわっています。しかし、それは、読者にとっては不自然でナンセンスなことであっても、物語世界の住人たちにとっては疑うという発想すら浮かばない当然のもの、常識です。

私たちとは少しずれた価値基準を持つ世界の、その日常を懸命に生きる人たちの姿は、私たちと何ら変わりません。だからこそ、その作品は私たちに問いかけます。

常識とは何か。

その異議申し立ては、私たちの根本を揺るがします。誰もが、世に蔓延する“常識”を、自ら常識として定義したのではないのですから。

常識が常識ではない世界では、すべてが個人に帰します。他の誰でもない、自分がどう思うか。それだけが唯一の価値、判断基準になります。

その厳しさを内に秘めて、物語は、奇を衒わない端正な文章で静かに綴られます。そこに感じる熱い想い。そして、どこまでも優しい視線。

大好きな作家の一人です。

刻まれない明日 (祥伝社文庫)

刻まれない明日 (祥伝社文庫)