『こうふく みどりの』

世界が個人の認識の結果なら、世界には、私が知らない“相”があるはずです。それを見せてくれる本を読むのは、最上級の刺激の一つです。

西加奈子の『こうふく みどりの』は、中学生の女の子が主人公。彼女の“大阪弁”の一人称をベースに、その間に別の女性たちのモノローグが挟まれるという変則的な構成になっています。

ちょっと変わっているけれど、どこにでもいそうな女性たち(と男性たち)。刺激的な恋愛も、家族のドラマもありません。しかし、“物語”があります。

きちんと立派な人など登場しません。でも、愛すべき人たち。理屈でなく心のままに暴走する大人と、それに対して心の中でクールに突っ込みを入れる少女。「そりゃそうだ」と、笑いながら頷くこと請け合い。

その一方で、「幸せって何だろう」という静かで素朴な問いかけ。世の中は、四六時中“こうすれば幸せになれる”のバーゲンセールですが、「(市井に)生きてる者を舐めるなよ」という誇りを感じました。

そして、アントニオ猪木。(何故と思った方は、本屋へGO!)

本編の文章を引用するのは差し控えますが、巻末に収められた対談の中の言葉なら良いでしょう。

アントニオ猪木も、あんなキャラクターですけど、いくつも不幸を背負ってるでしょう。実の娘さんを亡くしたり、借金だらけになったり。ああいう人こそ、いとおしいと思うんです。不幸は不幸で、消せずにずっと抱えてゆくけど、それを笑って生きていくような人を、私は小説で描いてゆきたいと思っています。」

こうふく みどりの (小学館文庫)

こうふく みどりの (小学館文庫)