『椿三十郎』

黒澤明の『椿三十郎』を映画館で観る機会を逃してはいけないと、午前十時の映画祭に足を運びました。

三船敏郎の豪快な殺陣と、「良い刀は鞘に入っているもの」に代表される、のんびりおっとりした城代家老の奥方とのやり取りのコントラストが鮮やかな、とにかく面白い作品です。

映画にしろ小説にしろ、そこに何を見るか(読むか)は年齢や立ち位置によって変化します。今回、わたしは仲代達矢演じる室戸半兵衛に惹かれました。

己のワルを自覚し、仕える上司すら利用すべき一人としか見ていない。そして、同じワルの三船演じる三十郎との間に生まれる奇妙な友情。

しかし、二人は対峙することになります。

「仕方なかったんだ」

この三十郎のセリフに込められた想いが辛い。

この作品は、藩の不正を糾弾しようとする若者たちから始まります。黒澤明は、自身の黒沢プロダクションを設立しての第一作で、大略「最初から興行収入を意識した作品を作るのは観客に対して失礼だ」と、汚職を題材に『悪い奴ほどよく眠る』を作りました。

椿三十郎』にも、その反骨精神が表れています。周囲から愚鈍な間抜けと思われている城代家老のセリフです(少し端折っています)。

「人は見かけによらないよ。一番悪い奴はとんでもないところにいる。危ない危ない」