『ザ・ボーダー』②

ドン・ウィンズロウの『ザ・ボーダー』には現実のアメリカの姿が色濃く反映されています。トランプ大統領の誕生です。

トランプ氏をモデルにした人物のみならず、さらに念を入れて娘婿まで登場させます。アート・ケラーは、この二人をターゲットにします。

かつて、大藪春彦が時の為政者をモデルにした登場人物を作品の中でコテンパンにやっつけていたことが思い浮かびます。

アメリカが世界中、特に中米と南米に政治的に軍事的に介入していたことは知られていて、それは『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』にも詳しいのですが、この『ザ・ボーダー』では、時のアメリカの政権が反共のために麻薬組織と取引をして利用したことが取り上げられます。

著者のウィンズロウは、その麻薬の問題を上記の登場人物たちと結びつけます。もちろんフィクションですが、現実のトランプ氏(と彼の周囲の人たち)のロシアとの関わりに対する疑惑の視線を、小説作品として別の事柄に置き換えたのであろうと思われ、その反骨心と作家としての発想には脱帽です。

船戸与一は、大略「ハードボイルドは帝国主義のある断面を不可避的に描いてしまう」と書きました。やはり、『ザ・ボーダー』はハードボイルドです。

ザ・ボーダー 下 (ハーパーBOOKS)

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