藤沢周平を二作品

久しぶりに時代小説を読みたいと思い、藤沢周平の作品を手に取りました。

一冊は『霧の果て 神谷玄次郎捕物控』です。連作短編集で、この手の作品は扱われる事件、その当事者たちの物語が描かれ、視点を受け持つ語り手の主人公は観察者あるいは傍観者ですが、神谷玄次郎は自身も辛い過去と、それに関連した目論みを抱えていて、それらは最終話に向かって行きます。

その最後の、ああ無常。これは、この作家の直木賞受賞作『暗殺の年輪』にも通じるものです。書かれた順は『暗殺の年輪』が先で、『霧の果て』が後です。同じ状況にぶつかりながら、それぞれの主人公の取る態度、その現実の受け入れ方は違います。

それでも、その根っこは同じかなとも思われ、正解がない世の中を生きる厳しさを感じたと言ったら考え過ぎでしょうか。

もう一冊は『闇の傀儡師』。この作品を手に取ったのは単純明快、北上次郎の『冒険小説論』で日本の時代伝奇小説について語られていたので、その流れを意識したものです。

優れたフィクションは、いっとき現実から離れて物語世界に遊ぶだけでなく、その現実世界と拮抗してもうひとつの世界を構築し、「ただいま」と言ってそこに“戻る”ことも可能にします。

これは小説に限らず、例えば巻数の多い長編漫画をまとめ読みしたときなども同様でしょう。優れたフィクションは人生を豊かにします。それは価値です。